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東京地方裁判所 昭和27年(ワ)2469号 判決

原告 東京貿易株式会社

被告 ルーペン・インポート・エクスポート・コーポレーシヨン

一、主  文

被告は原告に対して金二百四十四万四千二百十二円四十六銭及びこれに対する昭和二十七年四月二十五日から支払ずみまで年六分の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告において金五十万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

二、事実及び理由

第一、申立

原告の申立-主文第一、二項と同趣旨の判決及び仮執行の宣言を求める。

被告の申立-「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求める。

第二、当事者間に争のない事実

一、訴外太平商工株式会社(以下「訴外会社」という。)は食糧、油脂、農産物その他一般商品の輸出入及び国内販売等の業務を営む株式会社であり、被告は、米国肩書地に本店を有し、各種商品の輸出入等の業務を営んでいる会社であるが、訴外会社は昭和二十六年三月三日被告との間に米国産大豆イエローNO、2を価格一噸につき百六十三米弗C&Fで被告から訴外会社に売り渡す契約を結んだ。訴外会社は契約と同時にこの大豆をたゞちに訴外豊年製油株式会社に売り渡す契約を結んだ旨を被告に通知した。

二、その後、被告は昭和二十七年四月二十五日船腹手当の困難を理由に積出期の延長を求め、同月二十八日訴外会社に対し現実の船積予定の期日を具体的に指示して通知して来たが、これに対し訴外会社は本件契約による大豆の積出を同年五月十五日まで猶予することゝした。被告は更に同年五月八日本件大豆の一部を同月末日に米国ガルフポート出帆のルイスライクス号に船積する予定であることを訴外会社に通告した。

そして、結局被告が五月十五日までに本件契約による大豆の積出しを完了したのは同年四月二十六日積出の千四百七十三噸及び同年五月五日積出の九百七十三噸合計二千四百四十六噸のみであつた。

第三、争点

原告の主張

一、本件契約において被告が訴外会社に売り渡すことを約した大豆イエローNO、2の数量は四千噸で、昭和二十六年四月中にガルフポート積出しの約束であつた。

二、訴外会社は前記のように被告から同年五月八日船積予定変更の通知を得て買手である豊年製油株式会社と協議した結果、既定の方針どおり進むこととして同月十二日被告に対し同年五月十五日までに積出した分以外は本件契約を解除する旨の条件附解除の意思表示をした。ところが、その後、被告が五月十五日までに積出を完了したのは前記のように合計二千四百四十六噸のみであつたから本件契約数量四千噸の中からこれを控除した残量千五百五十四噸については、本件契約は前記五月十二日の条件附解除の意思表示に基き、被告の債務不履行によつて同年五月十五日限り解除されたものである。

三、被告の債務不履行によつて訴外会社は左のとおりの損害を被つた。

(1)  信用状開設手数料金二十二万八千九百十一円六銭

訴外会社は、本件契約による代金を被告に支払うため昭和二十六年三月十日株式会社大阪銀行東京支店(以下「大阪銀行」という。)に依頼して代金総額六十五万二千ドル分の信用状の開設を求め、同銀行よりニユーヨーク所在のオランダ銀行宛同金額の信用状の開設を受けたが、その際信用状開設の手数料として六十五万二千ドル(邦貨換算二億三千四百七十二万円)の二厘五毛に相当する五十八万九千三百二十六円五十銭を同月二十九日に大阪銀行に支払つた。

ところが、前記のように本件契約のうち被告が履行した部分は総数量四千噸、代金総額六十五万二千ドルの内二千四百四十六噸、金額にして三十九万八千七百四十四ドル七十八セントのみで差引き千五百五十四噸、金額二十五万三千二百五十五ドル二十二セント分は被告の債務不履行によつて解除されたので、訴外会社がこの解除により代金支払の必要のなくなつた部分の金額については信用状開設の必要がなかつたに拘らずその開設の手続をし、その手数料を支払つたことになる。従つて以上不履行の部分について訴外会社が支払つた信用状開設手数料金二十二万八千九百十一円六銭(前記総料金に対し履行された部分の代金額の総代金に対する比率を乗じた額を総料金から控除したもの)は、被告の本件債務不履行により訴外会社の被つた損失である。

そして、およそ、外国から輸入する商品の代金決済の方法として外国為替制度を利用する場合には外国為替銀行の信用状の発行を求めるのが通常の手段であり、そのためには、訴外会社のしたように信用状の開設銀行である外国為替取扱銀行に対し信用状の金額の二厘五毛の割合に当る開設手数料を支払わなければならないのであるから、訴外会社の被つた前記損失は被告の債務不履行により通常生ずべき損害というべきである。

(2)  信用状金利百二十九万一千九百三十三円八十四銭

訴外会社に前記のように昭和二十六年三月十日大阪銀行に信用状発行を依頼し、その後大阪銀行が本件契約についての最終の船積関係書類(船荷証券、送状、品質証明書、重量証明書等)を受領したのは同年六月二十一日であつたので、訴外会社は三月十日から六月二十一日までの期間の信用状開設金額六十五万二千ドルに対する年五分の割合による金利を同銀行に支払つた。ところが前記のように契約金額のうち二十五万三千二百五十五ドル二十二セントに当る部分は被告の債務不履行により解除されたので、解除された部分について訴外会社の支払つた金利合計百二十九万一千九百三十三円八十四銭(当時の一ドル当り邦貨三百六十一円五十五銭の為替相場で換算したもの)は(1) の場合と同様の理由により被告の債務不履行によつて訴外会社の被つた損失である。

そして、外国為替銀行が、信用状開設を依頼した者に対して信用状を発行するに際しては、支払保証の危険を負担する対価として必ず信用状開設額に対する年五分の割合による金利を徴するのであり、かつ、信用状の開設は外国貿易に於ては通常の手段であるから訴外会社が被告会社の債務不履行により本来不要であつた筈の多額の信用状開設手続をし、そのための金利の支払を余儀なくされた以上これによつて訴外会社の被つた損失は被告の本件債務不履行によつて通常生ずべき損失というべきである。

(3)  外貨先物売買契約一部解除による違約差金十七万七千二百七十八円六十五銭

訴外会社は、本件契約において、前記のように大阪銀行から信用状の開設を受けたがこれと同時に同銀行との間で外国為替等集中規則第十七条の規定により外国為替買の予約をした。ところが前記のように被告の債務不履行により本件契約が一部解除されたのでその結果外国為替予約の一部を取り消さなければならなくなつたが、かような場合には輸入契約の一部解除が不可抗力に基く場合又は解除された金額が外国為替予約金額の十パーセント以下である場合のほかは、予約したものが予約のときから取消のときまでの間の外国為替相場の差だけを損失として負担しなければならないので訴外会社は違約差金を支払つて予約の一部を取り消したのである。そして当初訴外会社が予約した際の外国為替相場は昭和二十五年一月十六日外国為替管理委員会告示第一号により輸入手形決済相場である一ドルにつき金三百六十一円五十五銭であり、予約取消の際は外国為替集中規則第十八条第三項、前記外国為替管理委員会告示第一号第二項により電信買相場一ドルにつき金三百五十八円九十五銭であつたのでこの差は一ドルにつき金二円六十銭であつたが、本件の場合は特に違約差金を一ドルにつき七十銭に減額されたので、結局訴外会社は前記契約解除となつた分の契約金額二十五万三千二百五十五ドル二十二セントについて、一ドルにつき七十銭の割合による違約差金十七万七千二百七十八円六十五銭を支払つたのである。

現在における外国貿易の商慣習によれば商品輸入のために外国為替制度を利用する場合には信用状金額は一般に外国通貨をもつて表示されるので将来起り得べき為替相場の変動により被ることのある著しい損害を避けるために、通常信用状開設と同時に信用状を発行した外国為替取扱銀行との間で外国為替買の予約をすることになつており、特に本件のような場合は前記外国為替等集中規則の規定によつて予約をする義務を課せられており、しかも予約を取り消した場合は前記のような違約差金を支払わなければならないこととなつているのであるから訴外会社が本件契約の解除に伴う予約の一部取消によつて支払つた前記違約差金は被告の債務不履行により通常生ずべき損害というべきである。

(4)  得べかりし利益金九十一万五千六百四十四円二十五銭

訴外会社は被告と本件契約を結ぶと同時に同日本件契約により買入れた大豆を、すべて豊年製油株式会社に売り渡す契約を結んだのであるが、この売買に当つて訴外会社は豊年製油株式会社からC&F価格につき一パーセントの割合による口銭をうけとる約束をしていた。ところが被告の前記債務不履行により前記のように本件契約の一部が解除されたので、訴外会社は解除された分の価格二十五万三千二百五十五ドル二十二セントにつき、前記一パーセントの割合の口銭をうけることができなくなり金九十一万五千六百四十四円二十五銭の得べかりし利益を失つた。

そして豊年製油との契約締結の事実は本件契約の締結のときに被告に通知し、被告もこれを了承した上本件契約を結んだものであるから、かような損失は特別の事情による損害ではあるが、被告が予見し又は少くとも予見し得べかりしところといわなければならない。

四、以上のとおりであるから(1) から(4) までの各損失はいづれも被告の前記債務不履行により訴外会社の被つた損害であり、被告はこれを賠償すべき義務がある。そして訴外会社は昭和二十七年四月二十三日旭交易株式会社、三都商事株式会社、清和商事株式会社と合併し、新に原告会社を設立したので、原告は訴外会社の有する一切の権利義務を承継し、従つてその被告に対して有する本件損害賠償請求権をも承継したから被告に対し、損害金合計二百六十一万三千七百六十七円八十銭のうち被告が訴外会社に対し有する反対債権十六万九千五百五十五円三十四銭に相当する額を控除した金二百四十四万四千二百十二円四十六銭及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和二十七年四月二十五日から支払ずみまで年六分の商事法定利率による遅延損害金の支払を求める。

被告の主張

一、原告の主張に対する認否

原告主張の事実のうち訴外会社と豊年製油株式会社との間で原告主張のような売買契約が結ばれた事実は知らない、その他の事実は全部否認する。

訴外会社と被告との間の本件売買契約に於て、売渡を約束した大豆の数量は、原告主張のように四千噸と確定されていたものではなく、売主である被告にその十パーセントまでの増減が許されていた。従つて四千噸の数量を基礎として損害賠償の請求をすることは不当である。

また、本件契約における船積の期限も一般の契約上の期限のように厳格に定められていたものではなく、当事者間における一応の目標期間としてなるべくその期間中に船積するように努力するという趣旨のものにすぎない。従つてこの期間は法律上の履行期ではないから、被告がその期間内に船積できなかつたとしても債務不履行の責任を負うべき理由はない。

また原告は本件契約において支払つた信用状の金利が被告の債務不履行により通常生ずべき損害であると主張するが、この金利は訴外会社が自己資金をもつて本件取引をすれば必ずしも支払う必要のないものであるから被告の債務不履行によつて通常生ずべき損害ということはできない。

二、抗弁

(一)  不可抗力の抗弁

仮に、原告の主張するように船積期間が定められていたとしても、被告は以下に述べるように不可抗力の事由によつて期間内に船積ができなかつたのであるから、本件契約の債務不履行の責任を負担すべき理由がない。即ち、被告は訴外会社に対して本件商品を船積期間内に船積すべく米国内で商品を用意し速かにこれを輸送するよう運送機関の手当もしていたのであるが、たまたま米国においては本件契約締結の日である昭和二十六年三月三日の直前の同月一日に、一般命令D、T、A2が発布され、輸出ばら積穀物に対する輸出港における倉庫保管及び優先取扱に関する統制命令が発せられた。この一般命令及びその改正法である同年四月十二日の一般命令によれば、輸出ばら積穀物の倉庫保管及び取扱には国防輸送管理局の許可を要することとなりしかもその許可は、(一)輸入諸国の穀物の相対的必要程度(二)輸送予定量に対する穀物の供給量(三)船腹供給量(四)輸出港における倉庫及び取扱施設の余裕状況等を慎重に検討し、これに関する米国農務省の勧告に従つて発せられることゝなつた。しかも当時朝鮮戦争遂行のための軍需輸送によつて許可条件(三)の船腹供給量は極度に不足し、更に印度の飢饉救済のための食糧品輸送確保のため許可条件(一)に規定する輸入国である日本穀物の相対的必要程度は減少せざるを得ないこととなつた結果、本件売買契約による日本への穀物輸送の許可を得ることは一層困難になつた。ところが被告会社東京支店の代表者は前記命令発布を知らずに本件契約を締結したので、このような事情から本件契約当時に約束した通常の場合を前提とする船積期間内には到底船積することができない状況となつた。かようなしだいで本件契約は不可抗力の事由により履行期に履行できなかつたものであるから被告には不履行につき何ら責任がない。なお、被告はこのような状況にもかかわらず、その後なみなみならぬ努力をはらつて漸く輸送の許可を得て本件契約を履行しようとした処、原告は、当時本件商品が値下りしたために船積の遅延を口実にして不当にも本件契約を解除したのである。

(二)  相殺の抗弁

仮に以上の主張が理由がなく、被告が訴外会社に対し原告主張のような損害賠償義務を負うものとしても、被告は訴外会社に対しつぎのような各反対債権を有するから、これらの債権をもつて、原告主張の損害賠償債権と本訴において相殺する。即ち(イ)本件契約を締結した際、訴外会社は昭和二十六年三月三日被告に対し本件契約により売渡した大豆一噸につき五十セントを日本円で支払うことを口頭で約束したが、その後被告は前記のように仮に二千四百四十六噸を引渡しているので訴外会社に対し合計金四十四万二百八十円の請求権がある。(ロ)本件契約において価格は最初C&F建で傭船に船積する約束であつたから被告の負担すべき運賃には本件商品が日本の港に到着したときの本船からはしけに荷卸する費用(いわゆる船内荷役料)は含まれておらずこの費用は訴外会社が負担することとなつていた。ところがその後被告は訴外会社の承諾を得て定期船に船積することに変更したのであるが、定期船の運賃には船内荷役料も含まれており、かつ、被告が船内荷役料を差引いて運賃を支払うことは船会社が承諾しないので被告はやむなく訴外会社の負担すべき荷卸料として昭和二十六年四月二十六日積出の千四百七十三噸二百八十七瓩につき噸当り金百七十五円合計金二十五万七千八百二十三円六十二銭を訴外会社のため立替え支払つたから訴外会社に対しこの立替金の返還を求める権利を有する。

よつて以上(イ)(ロ)の各反対債権をもつて本訴において原告主張の損害賠償債権と対等額について相殺する。

被告の抗弁に対する原告の答弁

一、不可抗力の抗弁に対して。

不可抗力の抗弁に関する被告の主張事実は否認する。被告の主張は、不可抗力の内容となるべき具体的な事実の主張を全く欠くもので明かに失当である。即ち仮に米国において当時被告主張のような内容の統制命令が発布されたとしてもこの命令には既に成立した契約については優先的考慮を払うという規定もあつて、本件契約についても許可申請をすれば容易に許可を得られたものと考えられるのであり、かつ本件契約で定められた船積期間は四月末であつて契約のときから二箇月に近い日時の余裕があつたのであるから、被告がその間にどうしても船積することができなかつたとは考えられない。更にもし被告主張のような不可抗力の事由があつたならば、当然同年四月中旬以前にその旨を訴外会社に申し入れ或は国際貿易の慣習に従い、その立証をするなど、予めその対策を講ずべきであるにかゝわらず、被告は単に「被告の予定の船舶が当初の目的以外の用途に使用されるに至つたので遅延する。」と述べたのみで原告からしばしば催告をうけた際も、また契約を解除された後も、船積を遅延した具体的な理由をすこしも明らかにしないのであるから、果して前記命令による許可申請の手続をしたか否かさえも疑わしい。このようなしだいで、被告の不可抗力の主張は理由のないことが明かである。

二、相殺の抗弁に対して。

相殺の抗弁に関する被告の主張事実はすべて否認する。被告主張の(イ)の反対債権については被告主張のような約束をした事実はない。また、被告主張の(ロ)の反対債権については、本件契約において大豆の船積方法は積船を指定して、これに満船積する予定で分割積を認めない約束であつたにかかわらず、被告は突然本件商品を定期船により分割船積することに一方的に変更して訴外会社に通告して来たのであるから、仮に被告が分割積にしたためにその主張の船内荷役料を支払つたとしても、それは被告自身の都合によつて生じた損失で訴外会社がこれを負担すべき理由はない。

第四、証拠

<省略>

第五、争点に対する判断

一、本件契約の内容について。

成立に争のない甲第一号証によれば本件契約においては、売り渡すべき大豆の数量は四千噸と定められ、なお売主は同数量の十パーセントを増減し得る旨の特約が附されていたことが認められる。被告は、このように売主が十パーセントの増減をすることができるのであるから契約数量は四千噸と確定されていたものでないと主張するけれども証人勝海二郎の証言(証拠保全事件)によれば、この特約は事由の如何を問わず売主が自由に契約数量を変更できる趣旨ではなく、本件契約では指定された傭船に満船積で輸送する約束であつたところから、積船の輸送量に差異のあり得ることを予め考慮しそのために実際に引き渡した数量と契約数量とが相違しても、契約数量の十パーセント以内に限つて買主はこれを許容しなければならないという趣旨で、特に設けられたものであることが認められるから、本件契約で定められた数量は原告主張のとおり四千噸と認めるのが相当である。以上の認定に反する被告代表者の供述部分は採用することができず他にこの認定をくつがえすに足りる証拠はない。

つぎに成立に争のない甲第一号証及び証人勝海二郎の証言(証拠保全事件)によれば、本件契約の積出期は昭和二十六年四月中と定められ、この期限は契約の重要な内容として約束されていたことが認められる。被告はこの積出期の定めは一応の目標期間の意味しかもたず、法律上の履行期ではないと主張するけれども何ら立証をしないので採るに足りない。

二、不可抗力の抗弁について。

被告は同年五月十五日までに合計二千四百四十六噸の大豆を積み出しただけでその余の部分を同日までに積出しを完了できなかつたことは不可抗力によるものであるから、被告に債務不履行の責任はないと主張し、被告代表者の供述によつて真正に成立したものと認める乙第一、二号証、成立に争のない乙第三号証から第五号証まで並びに証人塚本光春及び被告代表者の各供述を考え合わせれば昭和二十六年三月一日及び四月十二日米国において被告主張の一般命令がそれぞれ公布され、これによつて米国における輸出ばら積穀物の倉庫保管及び取扱は米国国防輸送管理局の許可を要することとなりこの許可は(一)輸入諸国の穀物の相対的必要程度(二)輸送予定量に対する穀物の供給量(三)船腹供給量(四)輸出港における倉庫及び取扱施設の余裕状況等に関する米国農務省の勧告に従つてされることと定められたこと、当時朝鮮戦争の戦略物資及び印度向けの食糧品の輸送等が特に優先的に取扱われていたため、輸入国の穀物の相対的必要程度という点からも、日本向け穀物の輸送の許可を得ることが難しくなつたこと、被告会社の日本における代表者はこれら法令の公布を知らずに本件契約を締結したことがそれぞれ認められ、以上認定の事実からすれば、以上のような事情から約束した積出期に本件商品の積出を完了することが被告にとつて契約締結当時予想したより相当困難になつたことはうかがうに難くない。

しかしながら一般に不可抗力による免責の認められるためには単に債務の履行が困難となつたというだけでは足りないことはもちろんであつて、一般的に履行が全く不可能となるような外部的事由が生じたか、又はそうでなくともその債務者として取引上通常期待し得る最善の注意若しくは予防方法をつくしても到底防止できないような特別の事情によつて履行ができなくなつた場合でなければならない。ところが乙第一、二号証によつて認められる前記法令の規定に徴しても、輸送につき政府当局の許可を要するというだけで、日本向けの穀物類の輸送が完全に不可能となつたわけではなく却つて証人勝海二郎の証言(本訴)によれば同法令の施行されていた当時に本件契約とほゞ同じ頃に締結された日本向け穀物輸出契約で期日どおりに履行された例のあつたことも認められるから前記法令の施行をもつて直ちに本件商品の積出を不可能による不可抗力の事由と認めることのできないことは明かである。更に、特に本件契約の履行について被告が十分の努力と注意をつくしても到底約束の期限に間に合わせるよう輸送できなかつた特別の事情については何ら具体的事実の立証がない、被告代表者の供述に徴しても、単に商事会社として通常できる努力を払つたというだけで、その具体的内容をすこしも明らかにしないし、他に本件を通じそのような具体的事実を認めさせるに足りる何らの資料も見出すことができない。

以上のとおりであるから、被告の不可抗力の抗弁は到底採用することができず、被告は本件債務不履行の責任を負うべきものといわなければならない。

三、本件契約の解除について。

成立に争のない甲第五号証、第六号証及び証人勝海三郎の証言(証拠保全事件)によれば、訴外会社は昭和二十六年四月二十八日積出期日の延長を承諾すると同時に、被告に対して期日の五月十五日までに必ず積出を完了するよう催告し同日までに積出しのない部分については契約を解除すべき旨予め通告したこと、その後訴外会社は同年五月十二日被告に対し五月十五日まで積出しのなかつた部分については本件契約を解除する旨の条件解除の意思表示をし、被告は、同日頃これを受領したことが認められる。そして訴外会社がした催告の期間は本件の事情に照し相当と認められるからこの催告期間の徒過を理由にされた条件附解除の意思表示は適法であり、これによつて本件契約のうち、五月十五日までに積出された一千四百四十六噸以外の部分は条件の成就した五月十五日限り解除されたものというべきである。

四、債務不履行による損害について。

(一)  信用状開設手数料

成立に争のない甲第七号証、証人坂本進の証言により真正に成立したものと認める甲第八号証及び証人坂本進の証言を総合すると、訴外会社が、本件契約の代金を支払うため原告主張の各日時に大阪銀行から原告主張の六十五万二千ドルの信用状の開設をうけ、その手数料として同金額の二厘五毛に相当する金五十八万九千三百二十六円五十銭を同銀行に支払つたことが認められる。そして前記のように被告は本件契約の総数量四千噸のうち二千四百四十六噸を履行したのみで、その他の部分については被告の債務不履行により解除されたので、残量千五百五十四噸金額にして二十五万三千二百五十五ドル二十二セント分に当る手数料金二十二万八千九百十一円六銭については、訴外会社が本来不要な信用状を開設してその手数料を支払つたことになるから、訴外会社は被告の債務不履行により同金額に相当する損失を被つたものというべきである。

そしてこのような信用状の開設及びこれに伴う手数料の支払は外国貿易における代金の支払の方法として通常行われるものであることは坂本証人の供述によつても認められるから、この損失は被告の債務不履行により通常生ずべき損害といわなければならない。

(二)  信用状金利

証人坂本進の証言及び同証言によつて真正に成立したものと認められる甲第九号証を総合すると、訴外会社は、原告主張のように前記信用状開設の日である昭和二十六年三月十日から信用状取消の日である同年六月二十一日までの百三日間の信用状金利として信用状開設金額六十五万二千ドルに対する年五分の割合による金員を大阪銀行に支払つたことが認められる。そして(一)の場合と同様の理由で、契約解除となつた部分の代金二十五万三千二百五十五ドル二十二セントに対する前記割合による金利合計百二十九万一千九百三十三円八十四銭(当時の一ドル当り邦貨三百六十一円五十五銭の為替相場で換算したもの)は訴外会社が本来不要な金員の支払を余儀なくされたことゝなるから、被告の債務不履行により同金額に相当する損失を被つたものというべきである。

そして証人勝海二郎の証言(本訴)によれば、外国為替取扱銀行が信用状を発行する場合には、外国銀行に対し信用状金額に相当する外貨を積立てなければならない関係上、信用状の開設を求める業者に対し信用状金利を支払わせるのが通常であることが認められるから、訴外会社の被つた損失は被告の債務不履行により通常生ずべき損害であるということができる。

被告は、この金利は訴外会社が自己資金をもつて本件取引をすれば支払う必要のないものであるから、被告の債務不履行によつて通常生ずべき損害とはいえないと主張するが、前記のように信用状の開設が外国貿易において通常用いられる代金決済方法であり、信用状金利が前記のように信用状の開設に当つて通常課せられるものである以上、被告の主張は取引の実状を知らない者の空論であつて採るに足りない。

(三)  外貨先物売買契約一部解除による違約差金

証人坂本進の証言及び同証言によつて成立したものと認める甲第十二号証によれば、訴外会社は前記信用状の開設に当り大阪銀行から外国為替買の予約をしたがその後被告の債務不履行により契約の解除された分の代金二十五万三千二百五十五ドル二十二セントについては為替が不要となつたので、その部分に相当する予約を取り消したこと、その結果訴外会社は大阪銀行から取消により被つた損失として取消となつた部分に対する、予約のときと予約取消のときの各為替相場の差額一ドルにつき七十銭の割合による違約差金十七万七千二百七十八万六十五銭の支払を要求されて、これを支払つたことがそれぞれ認められる。

そして坂本証人の供述によればこのような外国為替買の予約は信用状の開設に当り通常行われるところであり、予約取消の場合の違約差金の負担は、外国為替取扱銀行が予約に基き外国為替を買入れその取消によつてこれを売り戻す場合に、その間為替相場の変動により生じた差額を損失として予約者に負担させるもので、為替買予約を取り消した業者はこれを支払わなければならないことが認められるから、違約差金の支払により訴外会社の被つた損失は被告の債務不履行によつて通常生ずべき損害ということができる。

(四)  得べかりし利益

証人坂本進、勝海二郎(証拠保全事件)の各証言及び同証言により真正に成立したものと認める甲第二号証によれば、訴外会社は本件契約の締結と同時に同日豊年製油株式会社との間で、被告から買入れた本件大豆をすべて直ちに同会社に売り渡す契約を結んだこと、訴外会社はこの契約において、C&F価格につき一パーセントの割合による口銭を豊年製油からうけとる約束であつたことがそれぞれ認められる。そして前記のように被告の債務不履行により本件契約の一部が解除されたので、訴外会社は解除された部分の価格二十五万三千二百五十五ドル二十二セントについては、豊年製油からその一パーセントの割合による口銭の支払をうける権利を失つたものというべきであるから、訴外会社は被告の債務不履行により、前記割合による口銭金九十一万五千六百四十四円二十五銭(換算率は前同様)に相当する得べかりし利益を失つたことになる。

そして被告が本件契約締結の当時から豊年製油と契約を結んだことを訴外会社から通知をうけて知つていた事実は当事者間に争がなく、一パーセント程度の口銭は輸入業者と国内商社間の転売契約において通常予想されるところと認むべきであるから、以上の口銭について訴外会社の被つた損失は、輸出入を業とする被告会社として前記債務不履行のときである昭和二十六年五月十五日当時までに十分予見したか又は少くとも予見し得べかりしものといわなければならない。

以上(一)から(四)までの各損害は、いずれも、被告の債務不履行により訴外会社の被つた通常生ずべき損害、又は被告の予見し若しくは予見し得べかりし損害というべきであるから、被告は訴外会社に対し以上の損害金合計金二百六十一万三千七百六十七円八十銭を賠償すべき義務がある。

五、相殺の抗弁について。

(一)  被告主張の(イ)の反対債権について。

被告は、訴外会社が本件契約により売り渡した大豆一噸につき五十セントの割合による金員を被告に支払う約束をしたと主張するけれども、この主張に符合する被告代表者の供述部分は採用することができず、他に被告主張の事実を認めさせるに足りる何らの証拠もない。否、却つて被告代表者の供述の全趣旨から見ても被告会社の日本における代表者と訴外会社の社員勝海二郎との間で、一噸につき五十セント以内のいわゆるリベートの支払について好意的な申入れ又は話合いがあつたというにとゞまり、その金額すら確定していなかつたことが明かであり、このことと証人勝海二郎の証言(本訴)とをあわせ考えると、訴外会社が被告の主張のような約束を結んだことのない事実が明かであるから、被告の主張は全然採用の余地がない。

(二)  被告主張の(ロ)の反対債権について。

被告は本件契約においては当初傭船に船積する約束であつたが、その後定期船に分割積することに変更したので、本来訴外会社の負担すべき船内荷役料を被告において立替え支払つた旨主張するけれども、立替支払の事実について何らの立証がないばかりでなく、成立に争のない甲第三号証及び証人勝海二郎の証言(本訴)によれば本件契約を締結した際、船積の方法は積船を指定して満船積にする約束であつたこと、一般に船内荷役料はこのような満船積の場合は買主が負担し、分割積の場合は売主が負担するのが通常であること被告はその後同年四月十日に、予め訴外会社の承諾を得ることもなく、突然船積方法を変更して定期船に船積する旨通告して来たので訴外会社はやむなく、分割積にした場合の船内荷役料を被告が負担することを条件として分割積を認めたこと、被告はその後通告したとおり定期船に分割船積して本件大豆を輸送し、前記の数量を訴外会社が引き渡したことがそれぞれ認められ、以上の事実からすれば、被告は自らの都合によつて当初の約束と異る分割積の方法をとつたのであるから通常行われるところに従い、分割積の場合に生じた船内荷卸費用を売主として負担すべきことは当然であつて、この点において被告の主張はすでに失当である。よつて被告の相殺の抗弁はいずれも理由がない。

六、訴外会社の合併について。

訴外会社が昭和二十七年四月二十三日旭交易株式会社三都商事株式会社清和商事株式会社と合併し、新に原告会社を設立したことは証人勝海二郎の証言(証拠保全事件)及び原告提出の原告会社登記簿謄本によつて明かであるから、原告は同日訴外会社の有する一切の権利義務を承継し、訴外会社が被告に対して有する本件損害賠償請求権をも承継したものというべきである。

第六、結論

以上の理由によれば原告が被告に対して前記損害金合計金二百六十一万三千七百六十七円八十銭のうち二百四十四万四千二百十二円四十六銭及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和二十七年四月二十五日から支払ずみまで年六分の商事法定利率による遅延損害金の支払を求める本訴請求はすべて正当であるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を仮執行の宣言につき同法第百九十六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 古関敏正 田中盈 田辺公二)

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